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最高裁判所大法廷 昭和33年(あ)342号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人安田覚治の上告趣意第一点について。

所論は要するに、不正競争防止法は対立競争関係にある企業者間の競争的企業活動につき適用せらるべきものであって、そのような競争的企業活動であってこそはじめてこれを規制することが、公共の福祉の名において憲法上許容せられるのである。然るに、本件被告人は僅かな資本を他人より借り受け他人の店先の狭い部分を他の業者と共同で賃借している小商人であり、被害者と称する有限会社菊屋に比すれば、その規模において甚大な差異が存し、両者の間には対立競争関係は生じ得ない。それ故被告人の本件行為に不正競争防止法五条二号を適用することは、公共の福祉の要請によることなく不当に営業の自由を侵害するものであって、憲法二二条に違反するというのである。

しかし、不正競争防止法五条二号にいう「不正ノ競争ノ目的」とは、公序良俗、信義衡平に反する手段によって、他人の営業と同種または類似の行為をなし、その者と営業上の競争をする意図をいうものと解するを相当とする。そして、そのような不公正な競争の意図をもって、同法一条一号または二号に該当する行為がなされることは、ただに被害者たる他の営業者に対する不法な行為であるに止まらず、業界に混乱を来たし、ひいて経済生活一般を不安ならしめるおそれがあると認められ、このことは、所論のような両者の営業規模の大小にはかかわらないものというべきである。それ故、前記のような行為に必要な規制を加え、その違反者を処罰することは、公共の福祉を維持するために必要あるものであって、憲法二二条に違反するものではない。

これを本件についてみるに、原審の是認した第一審判決の判示によれば、本件被告人は、不正競争防止法五条二号にいう「不正ノ競争ノ目的」をもって、同法一条一号に該当する行為をしたものであるというのであって、右判断は、挙示の証拠に照らし正当と認められる。所論は、ひっきょう不正競争防止法の解釈に関する前示当裁判所の見解と異なる独自の見解または原審の認定に副わない事実関係を前提として、原判決を非難するに帰し、違憲の主張は採るを得ない。

同第二点について。

所論は単なる法令違反の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。(なお、この点に関する原判示は正当である。)

よって同四〇八条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中耕太郎 裁判官 小谷勝重 裁判官 島 保 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村又介 裁判官 入江俊郎 裁判官 池田 克 裁判官 垂水克己 裁判官 河村大助 裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 奥野健一 裁判官 高橋 潔 裁判官 高木常七 裁判官 石坂修一)

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